全部で170以上もあるというスコット・フィッツジェラルドの短編小説を少しでも体系的に、かつ、ひとつでも多く読もうとしたときに最初に困るのは、その作品群が、そもそもほとんど翻訳されていないことと、翻訳されていたとしても、そのレパートリーがあまりにも重複していることである。 例えば、1990年出版の後発組『フィッツジェラルド短編集』(新潮文庫)の解説文で訳者の野崎孝は、文庫のボリュームでわずか数編を選ぶことの難しさを述べた上で、結果的には「村上(春樹)氏のものと重複するのが三篇も含まれてしまった」ばかりか、訳語についても村上春樹から許諾を得た上でいくつか拝借していると正直に書いている。 逆に、先達…