おれは古今亭志ん生が好きで、よく昔の録音を聞く。 志ん生は昭和二十年代から三十年代に活躍した落語家で、息子は金原亭馬生と古今亭志ん朝である。驚くほどのネタ数を誇るが、人情噺より滑稽噺が得意で、まあ、この滑稽噺の破壊力ったらない。同時代の桂文楽や三遊亭圓生を今聞くとさすがに古いなと思うが、志ん生の噺は今でも通用する。そういう意味では現代的というか、むしろ普遍的なのかもしれない。 独特の口調で、文字にするとさして面白くないギャグも、志ん生が言うと無性におかしくなる。たとえば、「タコが山に寝ていて、タコ寝山(箱根山)」とか、「蛇が血を出して、へーびーちーでー」なんて、文字づらだとつまらないが、志ん生…