【産経抄】8月15日 - 産経ニュース 戦後、社会派推理小説の第一人者となった清張には、戦争をテーマにした作品が少なくない。『遠い接近』もその一つである。主人公の山尾は、6人の家族を抱えて色版画工として忙しく働いていた。ある日、30歳を超えていた山尾に召集令状が届く。復員を果たしたものの、(ボーガス注:東京から広島に疎開した*1)家族は(ボーガス注:原爆で)全滅していた。中年の自分に赤紙を送った人物が生きているのを知り、復讐を誓う。 ▼前半部分は、清張自身の体験と重なっている。『半生の記』によると、赤紙が指定した日に出向いた検査場で係官とこんなやり取りを交わしている。 「お前、教練にはよく出た…