フィンランドの生活記『フィンランドは今日も平常運転』(芹澤桂、大和書房、2022)を読んだいきさつは別の機会に書くことにして、ここでは別の話をする。この本を読んでいて、フィンランドの首都ヘルシンキで暮らす著者の日常生活を描いているのに、臨場感がないことに気がついた。著者は文章の素人ではなく、すでに何冊も本を書いているから、文章力の問題ではない。私が感じたのは、「そうだよなあ、住んでいたら、臨場感なんてない文章になるんだよなあ」ということだ。 例えば、小説家がヘルシンキを舞台にミステリーを書くとすれば、ガイドブックや地図やネット情報などをもとに、具体的な通りの名やビルの名やその姿や、主人公が住む…