【古文】 「さりとも、かかる御ほどをいかがはあらむ。 なほ、ただ世に知らぬ心ざしのほどを見果てたまへ」 とのたまふ。 霰降り荒れて、すごき夜のさまなり。 「いかで、かう人少なに心細うて、過ぐしたまふらむ」 と、うち泣いたまひて、 いと見棄てがたきほどなれば、 「御格子参りね。もの恐ろしき夜のさまなめるを、 宿直人にてはべらむ。 人びと、近うさぶらはれよかし」 とて、いと馴れ顔に御帳のうちに入りたまへば、 あやしう思ひのほかにもと、あきれて、誰も誰もゐたり。 乳母は、うしろめたなうわりなしと思へど、 荒ましう聞こえ騒ぐべきならねば、 うち嘆きつつゐたり。 若君は、いと恐ろしう、いかならむとわなな…