夢のその先は……(その1) (1) 夢を忘れてはいけない。夢は常に見続けていなければならない。そう思ってまた山に入るのである。だがなぜか、春の山は人を容易に夢想の世界に遊ばせてくれない。うつらうつらして、眠気があるのに深い眠りに入れない。何だか常に意識が邪魔をする。そんな感覚に近いものを感じるのが春山だ。 登山口までのおよそ一時間を、バッハのロ短調ミサ曲を聞きながらドライブした。そのため気分はかなり昂揚していた。山登りに宗教曲とは、世間の常識から見れば随分風変わりな組み合わせであろう。だが春の山を全身で受け止めたいと思っている者には、柔軟な感性こそ必要なのだ。学生時代に合唱を経験し、その後もず…