いづれの御時にか、 女御更衣あまたさぶらひたまひける中に、 いとやむごとなき際にはあらぬが、 すぐれて時めきたまふありけり。 はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々、 めざましきものにおとしめそねみたまふ。 同じほど、それより下臈の更衣たちは、 ましてやすからず。 朝夕の宮仕につけても、 人の心をのみ動かし、 恨みを負るつもりにやありけん、 いとあつしくなりゆき、 もの心細げに里がちなるを、 いよいよあかずあはれなるものに思ほして、 人のそしりをもえ憚らせたまはず、 世の例にもなりぬべき御もてなしなり。 夜の御殿《おとど》の宿直所《とのいどころ》から退《さが》る朝、 続いてその人ばかりが召さ…