〈古文〉 「まれまれは、あさましの御ことや。 訪はぬ、など言ふ際は、 異にこそはべるなれ。心憂くものたまひなすかな。 世とともにはしたなき御もてなしを、 もし、思し直る折もやと、 とざまかうさまに試みきこゆるほど、 いとど思ほし疎むなめりかし。 よしや、命だに」 とて、夜の御座に入りたまひぬ。 女君、ふとも入りたまはず、聞こえわづらひたまひて、 うち嘆きて臥したまへるも、なま心づきなきにやあらむ、 ねぶたげにもてなして、とかう世を思し乱るること多かり。 この若草の生ひ出でむほどのなほゆかしきを、 「似げないほどと思へりしも、道理ぞかし。 言ひ寄りがたきことにもあるかな。いかにかまへて、 ただ心…