〈古文〉 御車にたてまつるほど、大殿より、 「いづちともなくて、おはしましにけること」とて、 御迎への人びと、君達などあまた参りたまへり。 頭中将、左中弁、さらぬ君達も慕ひきこえて、 「かうやうの御供には、仕うまつりはべらむ、 と思ひたまふるを、あさましく、おくらさせたまへること」 と恨みきこえて、 「いといみじき花の蔭に、しばしもやすらはず、 立ち帰りはべらむは、飽かぬわざかな」 とのたまふ。 岩隠れの苔の上に並みゐて、土器参る。 落ち来る水のさまなど、ゆゑある滝のもとなり。 頭中将、懐なりける笛取り出でて、吹きすましたり。 弁の君、扇はかなううち鳴らして、 「豊浦の寺の、西なるや」 と歌ふ…