このほどは大殿にのみおはします。 なほいとかき絶えて、 思ふらむことのいとほしく御心にかかりて、 苦しく思しわびて、 紀伊守を召したり。 源氏 「かの、ありし中納言の子は、得させてむや。 らうたげに見えしを。 身近く使ふ人にせむ。 主上にも我奉らむ」 とのたまへば、 紀伊守 「いとかしこき仰せ言にはべるなり。 姉なる人にのたまひみむ」 と申すも、 胸つぶれて思せど、 源氏 「その姉君は、朝臣の弟や持たる」 紀伊守 「さもはべらず。 この二年ばかりぞ、 かくてものしはべれど、 親のおきてに違へりと思ひ嘆きて、 心ゆかぬやうになむ、 聞きたまふる」 源氏 「あはれのことや。 よろしく聞こえし人ぞか…