【古文】 「何か、かう繰り返し聞こえ知らする心のほどを、 つつみたまふらむ。 その言ふかひなき御心のありさまの、 あはれにゆかしうおぼえたまふも、契りことになむ、 心ながら思ひ知られける。 なほ、人伝てならで、聞こえ知らせばや。 あしわかの浦にみるめはかたくとも こは立ちながらかへる波かは めざましからむ」 とのたまへば、 「げにこそ、いとかしこけれ」 とて、 「寄る波の心も知らでわかの浦に 玉藻なびかむほどぞ浮きたる わりなきこと」 と聞こゆるさまの馴れたるに、すこし罪ゆるされたまふ。 「なぞ越えざらむ」と、 うち誦じたまへるを、身にしみて若き人びと思へり。 君は、上を恋ひきこえたまひて泣き…