伊予介、神無月の朔日ごろに下る。 女房の下らむにとて、 たむけ心ことにせさせたまふ。 また、内々にもわざとしたまひて、 こまやかにをかしきさまなる櫛、扇多くして、 幣などわざとがましくて、 かの小袿も遣はす。 「逢ふまでの形見ばかりと見しほどに ひたすら袖の朽ちにけるかな」 こまかなることどもあれど、うるさければ書かず。 御使、帰りにけれど、 小君して、 小袿の御返りばかりは聞こえさせたり。 「蝉の羽もたちかへてける夏衣 かへすを見てもねは泣かれけり」 「思へど、あやしう人に似ぬ心強さにても、 ふり離れぬるかな」 と思ひ続けたまふ。 今日ぞ冬立つ日なりけるも、しるく、 うちしぐれて、 空の気色…