「己がいとめでたしと見たてまつるをば、 尋ね思ほさで、 かく、ことなることなき人を率ておはして、 時めかしたまふこそ、いとめざましくつらけれ」 とて、この御かたはらの人をかき起こさむとす、 と見たまふ。 物に襲はるる心地して、 おどろきたまへれば、火も消えにけり。 うたて思さるれば、太刀を引き抜きて、 うち置きたまひて、右近を起こしたまふ。 これも恐ろしと思ひたるさまにて、 参り寄れり。 「渡殿なる宿直人起こして、『紙燭さして参れ』と言へ」 とのたまへば、 「いかでかまからむ。暗うて」 と言へば、 「あな、若々し」 と、うち笑ひたまひて、 手をたたきたまへば、 山彦の答ふる声、 いとうとまし。…