かの人の四十九日、 忍びて比叡の法華堂にて、 事そがず、装束よりはじめて、 さるべきものども、 こまかに、誦経などせさせたまひぬ。 経、仏の飾りまでおろかならず、 惟光が兄の阿闍梨、 いと尊き人にて、二なうしけり。 御書の師にて、 睦しく思す文章博士召して、 願文作らせたまふ。 その人となくて、 あはれと思ひし人のはかなきさまになりにたるを、 阿弥陀仏に譲りきこゆるよし、 あはれげに書き出でたまへれば、 「ただかくながら、加ふべきことはべらざめり」 と申す。 忍びたまへど、御涙もこぼれて、 いみじく思したれば、 「何人ならむ。 その人と聞こえもなくて、 かう思し嘆かすばかりなりけむ宿世の高さ」…