本稿では,「巨きなまっ黒な家」の庭に咲く丈の高い「百合」と,「しのぶぐさ」の上に横たわる「百合」が何を意味しているのについて検討する。 1.賢治の恋人との関係 ガドルフは,「巨きなまっ黒な家」に避難したのちに,庭に雷光で映し出される「しろいもの」を見ることになる。ガドルフはこの「しろいもの」がすぐに白い「百合の花」であることに気づくが,「おれの恋は,いまあの百合の花なのだ。いまあの百合の花なのだ。砕けるなよ。」とつぶやく。 向ふのぼんやり白いものは,かすかにうごいて返事もしませんでした。却(かへ)って注文通りの電光が,そこら一面ひる間のやうにして呉れたのです。 「ははは,百合の花だ。なるほど。…