源氏 「違ふべくもあらぬ心のしるべを、 思はずにもおぼめいたまふかな。 好きがましきさまには、 よに見えたてまつらじ。 思ふことすこし聞こゆべきぞ」 とて、いと小さやかなれば、 かき抱きて障子のもと、出でたまふにぞ、 求めつる中将だつ人来あひたる。 源氏 「やや」 とのたまふに、 あやしくて探り寄りたるにぞ、 いみじく匂ひみちて、 顔にもくゆりかかる心地するに、 思ひ寄りぬ。 あさましう、 こはいかなることぞと、 思ひまどはるれど、 聞こえむ方なし。 並々の人ならばこそ、 荒らかにも引きかなぐらめ、 それだに人のあまた知らむは、 いかがあらむ。 心も騷ぎて、慕ひ来たれど、 動もなくて、 奥なる…