頭中将 中将 「なにがしは、痴者の物語をせむ」 とて、 「いと忍びて見そめたりし人の、 さても見つべかりしけはひなりしかば、 ながらふべきものとしも思ひたまへざりしかど、 馴れゆくままに、あはれとおぼえしかば、 絶え絶え忘れぬものに思ひたまへしを、 さばかりになれば、 うち頼めるけしきも見えき。 頼むにつけては、 恨めしと思ふこともあらむと、 心ながらおぼゆるをりをりもはべりしを、 見知らぬやうにて、久しきとだえをも、 かうたまさかなる人とも思ひたらず、 ただ朝夕にもてつけたらむありさまに見えて、 心苦しかりしかば、 頼めわたることなどもありきかし。 親もなく、いと心細げにて、 さらばこの人こ…