【源氏物語 63 第5帖 若紫7】〈古文〉 内にも、人の寝ぬけはひしるくて、いと忍びたれど、 数珠の脇息に引き鳴らさるる音ほの聞こえ、 なつかしううちそよめく音なひ、あてはかなりと聞きたまひて、 ほどもなく近ければ、外に立てわたしたる屏風の中を、 すこし引き開けて、扇を鳴らしたまへば、 おぼえなき心地すべかめれど、聞き知らぬやうにやとて、 ゐざり出づる人あなり。 すこし退きて、 「あやし、ひが耳にや」とたどるを、聞きたまひて、 「仏の御しるべは、暗きに入りても、さらに違ふまじかなるものを」 とのたまふ御声の、いと若うあてなるに、 うち出でむ声づかひも、恥づかしけれど、 「いかなる方の、御しるべ…