ふりすてて今日は行くとも鈴鹿《すずか》川 八十瀬《やそせ》の波に袖は濡れじや 〜わたしを振り捨てて今日は旅立って行かれるが、 鈴鹿川の多くの瀬の波に 袖を濡らして後悔なさいませんでしょうか。 【第10帖 賢木 さかき】 斎宮は十四でおありになった。 きれいな方である上に 錦繍《きんしゅう》に包まれておいでになったから、 この世界の女人《にょにん》とも見えないほどお美しかった。 斎王の美に御心《みこころ》を打たれながら、 別れの御櫛《みぐし》を髪に挿《さ》してお与えになる時、 帝《みかど》は悲しみに堪えがたくおなりになったふうで 悄然《しょうぜん》としておしまいになった。 式の終わるのを八省院《…