「もし、見たまへ得ることもやはべると、 はかなきついで作り出でて、 消息など遣はしたりき。 書き馴れたる手して、口とく返り事などしはべりき。 いと口惜しうはあらぬ若人どもなむはべるめる」 と聞こゆれば、 「なほ言ひ寄れ。尋ね寄らでは、さうざうしかりなむ」 とのたまふ。 かの、下が下と、 人の思ひ捨てし住まひなれど、 その中にも、 思ひのほかに口惜しからぬを見つけたらばと、 めづらしく思ほすなりけり。 さて、かの空蝉のあさましくつれなきを、 この世の人には違ひて思すに、 おいらかならましかば、 心苦しき過ちにてもやみぬべきを、 いとねたく、負けてやみなむを、 心にかからぬ折なし。 かやうの並々ま…