少将と康頼の熊野詣では、異常な熱心さで続けられた。 時には、徹夜で祈願をすることもあった。 ある日いつもの通り、夜になって、二人は一晩中、 今様《いまよう》などを歌い続けて、 さすがに明け方疲れ果てて眠ってしまったことがある。 康頼も知らずしらずの内にまどろんでいたらしい。 沖の方から白帆をかけた小舟がやってきて、 中から紅の袴《はかま》をつけた女達が三十人ばかり、 岸にあがってきて鼓をうち、 声を合せて今様を歌い出したのであった。 よろずの仏の願《がん》よりも 千手《せんじゅ》の誓《ちかい》ぞ頼もしき。 枯れたる草木も忽ちに 花咲き実なるとこそきけ。 三べんほど、くり返すと、 その姿はかき消…