確定申告の季節になるとこの小説を思い出します。今年はコロナ騒ぎで〆切が一か月伸びましたね。 わが愛の税務署 筒井康隆 「しまった」と、おれは叫んだ。 読んでいた新聞をひっつかみ、すぐさま台所へかけつけ、妻にいった。「たいへんだ。えらいことを忘れていた。今日は確定申告の締め切り日だぞ」 「まあ」妻は蒼くなった。「どうして忘れていたのかしら」 「いそがしすぎて、ついうっかりしていたが」おれは舌打ちした。「しかし税務署だって悪い。今日が最終日だということを、もっと宣伝しないからいけないんだ」 「でもやっぱり、わたしたちが悪いわ」と、妻はいった。「税務署だって、都民をいら立たせたくないから、わあわあ催…