宗教をひたすら避けていた時期があった。膝のじん帯を痛め、動けない私に池田大作の本をどんと送り付けてきた学会員の伯父が嫌いだった。大学に進むときもミッション・スクールは避けた(今にして思えば立教にも上智にも好きな先生はいたのだが)。それなのに、フランス留学中、気がつくと私は教会で長い時間を過ごしていた。そこには信者でなくても座れる椅子があった。 クリスティアン・ボバンの作品は私にとって、この椅子なのだ。ボバンの代表作にして、数少ない邦訳作品のひとつ「いと低きもの」(中条省平訳、平凡社)は、聖フランチェスコの生涯を題材とする。この本の冒頭、「子供は天使とともに出発し、犬があとから付いていった」とト…