表題のマルクスはマルクス兄弟ではない。 エラリイ・クイーンは、パズル・ミステリ作家のなかでもひときわ異彩を放っている。彼(ら)ほど、論理に拘った推理作家は英米でもまれだろう。同時代のアガサ・クリスティやジョン・ディクスン・カーらに比しても、また現代作家を見回しても、あそこまで論理的推論を追求した例は他に思い浮かばない。それは、作風が変わったとされる1940年代以降でも基本的に同じである。推論に割く割合が減ったとしても、最後までそこに拘泥したのは、最終作の『心地よく秘密めいた場所』(1971年)を見てもわかる。その姿はいささか偏執的ですらある。 実際、クイーンの推理には、他の英米作家にはない独特…