『災厄の町』(1942年)は、エラリイ・クイーンの代表作のひとつとして知られる。日本でも、江戸川乱歩[i]らによって、第二次大戦後に紹介された作品のうちの傑作として喧伝されてきたが、決定的となったのは、フランシス・ネヴィンズ・ジュニアによる評伝[ii]で、1940年代の諸長編が1930年代のそれらを上回る評価を得ていたことが知られるようになってからだろう。 その後、クイーン自身の評価[iii]や各種のベスト表[iv]に採られることで、本書の名声は今や揺るぎないものとなっている(クイーン作品全般の海外における人気の凋落はおくとして)。 本書の最大の特徴は、作者自身が副題に「小説」と記したように、…