湯煙の月見酒 「カケス男や。風が出てきたようだが、ぼちぼちお開きにしようかい」 「風ェ?ウィーッ、ヒック!ワイは何も感じまへんけど」 「すっかり酔っぱらっちまっとるようじゃのう。これじゃあ月見風呂どころじゃないわ。ったく、自分から言い出しよったくせに」 ここは日本最北の島、オシリ島。ふたつの峰を持つ円形の堂々とした島だが地図には記されていない。地図に載らないのは隣国との境界線を巡って危うい位置にあること、そして稀有な資源が眠っているのではないかという、まことしやかな噂が流れているからだ。 噂を確かめようとした者も少なくなかったらしいが、みな帰らぬ人となったという。 これも噂だ。 噂の真偽につい…