(本書の内容に触れています。) 1935年の『一角獣の殺人』がカーター・ディクスン名義の最後の作品となるはずだった、という。ヘンリ・メリヴェル卿のファンなら腰を抜かしそうな話だが、カー名義の出版社からペンネームに関するクレームが来たのが、理由だったらしい。ディクスン名義をあきらめる代わりに、新しい有利な条件で契約したところ、ディクスン名義の出版社からも好条件を提示されて、つい断れずに、という話[i]は、いかにもカーらしい、豪快な、あるいはずぼらなエピソードだ。結局、我々は、こうしてフェル博士ものも、H・Mものも20冊以上楽しめることになったのだから、ミステリの神様に感謝しなければならない。 1…