『読者よ欺かるるなかれ』(1939年)は、カーター・ディクスン名義の異色長編である。といっても、カーには異色長編が多い。 例によって、カー作品ではおなじみの怪奇な謎が全編を覆っている。今回いささか異なるのは、SF的な超能力(テレフォース)による遠隔殺人だという点である。しかも、超能力者の怪人物は殺人を予告したうえ、死体には一切傷あとも毒物の痕跡も残っていないという、ものすごい不可能犯罪である。 作品は、『五つの箱の死』にも登場したサンダーズ博士の視点で語られる。作家のマイナ・コンスタブルの屋敷に招かれたサンダーズは、読心術師のハーマン・ペニイクを紹介される。彼の力を信じないマイナの夫サムに対し…