(本書およびアガサ・クリスティ『アクロイド殺害事件』の内容に触れています。) 『貴婦人として死す(She Died A Lady)』(1943年)は、近年、評価が急上昇したカー(ディクスン)作品だろう。もともと、ハヤカワ・ポケット・ミステリ版[i]の裏表紙の解説には、「ディクスン名義の作品中で指折りの名篇と定評ある傑作」、とあった。依然、江戸川乱歩の影響が根強かった頃なので、誰が言ったんだよ、乱歩はこの作品のことなんか書いてないぞ、と思ったことを記憶している。 その後、本書に対する評価で目に付いたのは、カーが亡くなったとき(1977年)、『ミステリ・マガジン』の追悼号に載った、都筑道夫のエッセ…