(本書の犯人、トリック等を明かしていますので、ご注意願います。) クリスチアナ・ブランドの代表作は、『はなれわざ』[i]というのが通り相場だった。 都筑道夫が日本語版『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』のコラム「ぺいぱあ・ないふ」(1956年9月号)の第一回で本書を取り上げ、「看板に偽りなく文字通り『離れ業』の大トリックがあり、(中略)綿密に伏線が張りめぐらしてある、という近来まれな本格作品」と持ち上げて、さらに「といって大時代な拵えもの臭い本格ではなく、登場人物も生き生きと描かれていて、ユーモラスでしゃれた小説になっている」[ii]と駄目押しした。 1959年にようやく翻訳が刊行され…