(本書の犯人およびアイディアを明示していますので、ご注意ください。) クリスチアナ・ブランドの代表作といえば、昔は『はなれわざ』(1955年)、近年は『ジェゼベルの死』(1948年)だが、『疑惑の霧』(1952年)[i]も一貫して代表作のひとつに挙げられてきた。 都筑道夫は、翻訳刊行以前に『エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン』のコラムで取り上げると、「ユーモラスでシャレた雰囲気」で書かれており、「本格ファンにも、小説としての面白さを重んじるファン」にも楽しく読めると称揚している。『はなれわざ』に比べるとトリックは「ずっと小味ですし、独創的なものでもありませんが、現代の本格探偵小説は在来の…