ク・ナウカは、ソロ・パフォーマンスで高い評価を受けてきた宮城聰を中心として、美加理、阿部一徳、吉植荘一郎らによって1990年に結成されました。ロシア語で「科学へ」を意味するク・ナウカは、結成時から明確な方針を持って活動を進めています。いちばんの特徴は、「語る」俳優と「動く」俳優が分かれており、主な登場人物はすべて、二人一役で演じられる点です。座ったまま台詞を語る俳優と、人形のような無表情で動く俳優の、抑圧され純化されたエネルギーが舞台上で交錯する時に生まれる、日常を超えたダイナミズム──これこそク・ナウカの醍醐味です。
代表作は、『サロメ』『エレクトラ』(日本インターネット演劇大賞受賞)『天守物語』『熱帯樹』『王女メデイア』など。海外公演も積極的に展開しており、特にアジア圏(韓国・インド・チベットなど)では現地の伝統演劇の俳優たちと演技術の相互交流を行うことでク・ナウカ的演技法の精錬をおこなってきました。壁にぶつかって久しいヨーロッパ近代演劇を転覆させる可能性を持ったアジア最先端の劇団のひとつとして、国内外で精力的な活動を続けています。
生と死、愛と憎しみ...人間の持ちうるダイナミックな感情、その幅の広さを表現するため、題材は洋の東西を問わず、古典から選んでいます。文楽・歌舞伎・能といった日本の伝統芸能の豊かな蓄積から学べる部分を学びつつ、90年代に生きる者ならではのテクノロジーも取り入れた表現は、現在の日本を象徴する新たな様式を獲得しつつあります。
舞台を包む空間全体を変容させることをめざすク・ナウカでは、空間の特徴を最大限生かすよう、美術プランを綿密に練ります。もちろん劇場の選択そのものが、公演を行うにあたって非常に重要な作業となります。「メソッド高井戸倶楽部」「川崎市市民ミュージアム」「AsahiスクエアA」「湯島聖堂中庭」「旧細川侯爵邸」「芝・増上寺」「小倉城天守閣前広場」等、一般 の劇場ではない場所でも数多くの公演を行ってきました。
ク・ナウカの舞台では、全編常に音楽が流れています。西欧の現代音楽や各地の民族音楽など録音された音も使いますが、最近では打楽器の生演奏が大きな比重を占めています。使っているのはジャンベ・タブラ・チャングなどアフリカやアジアの打楽器で、すべて俳優が演奏します。台詞はこれら音楽にのせて、台詞そのものが音楽の一部となるように語られます。
ク・ナウカならではの手法を生かした、海外演劇人との共同作業による公演も、結成以来の指針の一つです。'94年にはアメリカ人俳優が英語で語りを担当した『トゥーランドット』を「三井クロースアップ・オブ・ジャパン(アトランタ・米国)」で上演、その折交流した俳優の一人が翌95年に来日、利賀フェスティバルで上演した『エレクトラ』に動きで参加しました。また'96年にはスペイン人(カタルーニャ語圏)・フランス人俳優と共に、カタルーニャ語・フランス語の混成台本による『サロメ』をシチェス国際舞台芸術祭(スペイン)・モンペリエ国際演劇祭(フランス)で上演しました。