明治41年の夏、一人の作家が丹後の宮津を訪れている。古来宮津は、都の海への玄関口として栄えたが、当時もその面影は色濃く残っていた。作家はよほどこの地が気に入ったものと見えて暫く滞在し紀行文を残している。 と、松本清張風に始めてみましたが、あとが続かないので普通にもどします。作家の名はベルンハルト・ケラーマン。さすがに売れっ子作家だけあって、書き出しの夏の夕暮れ、宿を出て舟で茶屋に向かう情景はまるで清親の版画が動き出すかのように印象的です。 このあとお気に入りの芸者の様子やお座敷踊りの解説などが、同行した画家カール・ヴァルザーの挿絵付きで続きます。この作品で特に興味を惹かれるのはケラーマン自身が…