ブリュッセルのアパートの部屋で、美貌を控えめに引き立てる上品さを感じさせる灰色のセーターをその都度に羽織ったり脱いたりする未亡人のジャンヌの姿に、『去年マリエンバートで』でココ・シャネルがデザインした衣装をまとった上流階級の貴婦人のきらびやかな面影はあとかたもなく拭い去られている。だが、デルフィーヌ・セイリグが演じる、タイプの異なる両方の女性人物には、程度の差こそあれ謎めいた雰囲気を醸し出す不透明なたたずまいと、男性にとって都合よく美化あるいは物化される隣人としての女性像が投影されていることの共通性を嗅ぎ取ることはできるかもしれない。アラン・レネはそのような謎めいた女性像の描写への意欲を妄想的…