(本書のトリックのほか、G・K・チェスタトン「マーン城の喪主」の内容に触れています。) 松田道弘は、ジョン・ディクスン・カーの『三つの棺』(1935年)[i]で作者がやりたかったことについて、次のように述べている。 「カーがやりたかったのは、この作品の最後でフェル博士に棺の中の死体を指ささ せて、『この男が犯人だ』と大見得を切らせたかったのだと思う。つまり死人が犯人 という飛び切りの意外性を狙ったのだろう。」[ii] なるほど、確かにクライマックスの場面としてはそうかもしれないが、犯人の着想としては、違った見方もできるかと思う。本書では、二件の不可能殺人事件が相次いで起こるが、二人の被害者は同…