(本書の内容をほぼ明かしていますので、ご注意ください。) 原題のThe Sad Varietyは、例によって文学作品からの引用かと思ったが、訳者解説でも何も説明がないので、違うようだ。「嘆かわしい見解の不一致」とは、要するに東西冷戦の西側と東側のイデオロギー対立を指しているのだろうか。献辞に「罪ある者すべてに」とあるのも、随分思わせぶりだ。ニコラス・ブレイクの第十八作『悪の断面』(1964年、この邦題もどういう意味なのだろう)[i]は、『短刀を忍ばせ微笑む者』(1939年)[ii]、『闇のささやき』(1954年)[iii]に次ぐスパイ・スリラーである。 ブレイクは定期的に、このジャンルの小説を…