パリには二つの中華街があった。南東部の十三区、それに北東部のニ十区にそれぞれチャイナタウンが形成されている。我が家はパリ市十五区にあったので二つ隣の十三区の中華街が近かった。十三区のほうが歴史が古いのか、街はやや古びていた。パリの北部はえてしてどこも治安が悪い。ニ十区のチャイナタウンはまだ新しいが、街全体に危ない空気感が漂い緊張した。しかしそこに何度も通ったのは安くて美味い中華料理店があったからだった。店はチープで小汚かったが炒め物は文句なしに美味かった。そんな店の看板料理が空心菜炒めだった。ニンニクのかけらに赤唐辛子が少し。あとは空心菜の粗切りを強い火力で炒めただけのものだった。以来この店の…