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フォルマリズム

(一般)
ふぉるまりずむ

 文学理論の一派。一般に「形式主義」もしくは「形式的方法論」などと説明的な呼び名で呼ばれる。主に1910〜20年代にロシアで盛んになったために「ロシア・フォルマリズム」と呼ばれることも多い。ここでは特にロシア・フォルマリズムに限って私見を述べる。
 フォルマリズムの提唱者たちは各々多様な立場を取っており、これらの特性を単純化して説明することは困難かと思われる。とはいえ研究者に共通な傾向として挙げられるものは、以下のように四つに集約できる。すなわち、1:視点の特殊性、2:文学の技術性、3、社会との連動性である。 
、第一に「日常言語」と「詩的言語」の違いを出発点にして「文学」が「文学」であるための条件を追求した点にある。たとえばフォルマリズムの提唱者の代表的人物として知られるシクロフスキィは「文学性」という概念の本隊が「視点の特殊性」にあるという詩的をしている。たとえば普通の人間が見た普通の人間の世界を「ネコ」の目から見ることで、同じ世界が特殊な景観を帯びるような現象が文学の本質であるといっている。 
 フォルマリズムの第二の特性としては、文学を技術として捉えようとする点が挙げられよう。そのためフォルマリズムの理論家のなかには、文学が工業的に生産可能になるという未来像をホンキで信じていた者も多かったと言える。そうした傾向のつよい研究者はトマシェフスキィと言えるかと思われる。トマシェフスキィは特に、ファーブラとシュジェートという概念を提示し、物語のなかの出来事と起こる順番と、話として語られる出来事の順番との違いを強調し、物語は語られる内容と語る方法から出来ていることを早くから指摘している。また、トマシェフスキィは「動機付け」という用語の下に特に小説という物語作品の面白さを支える技術的条件を分析的に述べている。トマシェフスキィによれば、因果関係や、本当らしさなどが作にこめられたの効果的な技術によって作られると見ていた。この見方は図らずもハリウッド映画の製作技術や恋愛小説の量産という形で当時敵対・競合関係にあったアメリカで実行されてしまった。皮肉な結末である。
 第産の傾向として挙げられるのは、社会性の強調である
文学作品の意味や価値はそれ自体に内在する要素だけではなく、その作品を受容する社会の傾向という要素によって決定されるというような考え方である。。現代的な表現を使えば文学のポリティーク、あるいは政治力学の強調である。恐らくこの傾向が最も強いの理論家はトゥイニャーノフということになるだろう。トゥイニャーノフは作品の生成や受容と、社会的力学の間に見られる関係の解明に努めたが、この考え方は当時ロシアでも新しいもので、それまで支配的だった心理主義、つまり作家個人が作品に描こうとした人間の心理だけが作品の意味を決定するという見方への反撃となった。この反心理主義は後のバフチンの理論や、エストニアを中心に発展した文化記号論などに対する先駆的意義をもっていたの評価が可能である
 これらの三つがフォルマリズムの基本特性と言えるが、毛一つ忘れてはならない傾向がある。それは「原語学的傾向」とでもいうべきもので、後のロシア機能主義言語学などの水源にもなった考え方である。
 もし言語が単純にある情報を「伝達する」ためだけの道具だとすれば、機会言語のように無難で的確な表現だけが生き残ることになる。しかし、言語にはむしろ同じ情報を伝達するにも無限に多様な表現が想像されてゆく。言がもつ重要な機能としてのの詩的機能、ないし言語による遊びも言語の不可欠な機能としてj評価されてよい。そしてこの機能こそ文学が文学であるための基本条件の一つに数えられる。
 1920年代までフォルマリズムはそれ以外のロシアアヴァンギャルトや未来派、構成主義などのの芸術界の新潮流と合流しながら発展してゆくが、トロツキィによる激烈にして執拗な批判にも晒され、スターリン時代の苦難の時代を経てその命脈は急激に断ち切られることになった。
 フォルマリズムそれ自体の退潮とは別に、文学作品に隠された数学的、幾何学的な美しさの原理を発掘しようという動きは、クリステヴァやトドロフといった。広い意味でのロシア詩学の伝統を背負った研究者たちの手を通じて西ヨーロッパにも伝わり、ロラン・バルトによる初期のテクスト分析にも決定的な影響を及ぼした。ただし、ロラン・バルトに代表されるテクスト分析の担い手たちは、次第に作品のもつ魅力が作者本人でさえ意識できない原理、テクストそのものに内在する原理によって作られているという見方をするようになる。フォルマリズムはある意味西欧で復活しかけたものの、文学を「技術」として説明し、創作活動の全てを意識的にコントロールできるものだとした態度は受け継がれなかったと言ってよい。

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