とっくの昔に死んだ作家の本を読むことが多い。これは完全な偏見だが、時の洗練を受けてなお残ってきた文学というものには、まさにそのことのゆえに、一定の価値が備わっているように思うからだ。現代作家に明るくない人間を果たして読書家と呼べるのかはさておき、こうした読書癖には少なくとも一つ利点がある。それは、長らく評価され版を重ねてきた作品は古本屋に並びやすいという事実である。 『マルテの手記』は前々から読みたいと思っていた作品の一つだったのだが、先日古本市に出掛けた際に150円で売られていたのを見てついに購入した。カバーは汚れていたが、いつも外して読む自分からすればもはや関係のない話だし、年季を経てやや…