「誓って言いますよ。あのひとはここへ来やしません。それに、誰一人あのひとが来ようなどとは思っていなかったのです!」 「でも、おれはあの女をちゃんと見たんだがなあ……してみると、あれは……よし、すぐにあれがどこにいるか探り出してやる……あばよ、アリョーシャ! もうこうなったら、このイソップ爺《じじい》に金のことなんか一ことも言っちゃならんぞ。しかし、カチェリーナ・イヴァーノヴナのところへは、これからすぐに行って、ぜひとも『よろしく申しました』と言ってくれ! いいか、よろしくよろしくと言うんだぞ! そして、今日あったことを詳しくあのひとに話してくれ。」 その間に、イヴァンとグリゴーリイは老人を助け…
[#1字下げ]第四篇 破裂[#「第四篇 破裂」は大見出し] [#3字下げ]第一 フェラポント[#「第一 フェラポント」は中見出し] 朝早くまだ夜の明けないうちに、アリョーシャは呼び起された。長老が目をさましたのである。彼は非常に衰弱を感じていたけれど、床を離れて肘椅子に坐りたいと言いだした。気はまだ確かなものであった。その顔ははなはだしい疲労の色を示していたが、ほとんど嬉しそうに見えるほどはればれとして、目つきはうきうきと愛想よく人を招くように思われた。 「ことによったら、きょう一日生き延びることができんかもしれぬ」と彼はアリョーシャに言った。 それから彼はすぐ懺悔をして、聖餐を受けたいと申し…