浪人が歩いていた。いや、浪人だった、というべきか。 侍という身分が無くなった以上、浪人もいなくなったはずだった。 しかしかつての浪人のように、男は太刀を腰に差していた。 すれ違う者たちが太刀を見ているのがわかった。しかし男は気にした様子もない。 俺は侍だ。腰の刀がそう言っていた。 維新前、男は町の小さな一刀流系の剣術道場をやっていた。 今は門弟もおらず、一人で稽古する毎日だった。 それでも侍をやめる気はなかった。 世の中が変わっても、変えてはいけないものがあるはずだ。 突然、目の前に男が風のように現れた。若い男だ。 長い髪を後ろで束ね、着流しを着ている。 彼の右手には、肩の高さほどの細い棒が握…