午後15時。木曜日。 東京近郊の街、その駅周辺にある欧風の喫茶店。ぼんやりと座っていた私の前に、小さなお婆さんの姿が現れた。ゆっくりと歩む姿は、ひじょうに凛としていて、きりりとした黒い眉をすこし長めにひいている。 私が小さな頃恐れていた、算盤の先生とか、 書道のお師匠とか、そんな感じのほんのすこしだけ近寄りがたいような雰囲気を醸している。黒々と染めた髪は低くシニヨンにし、お出掛け着でも家着でもない、でも日常に纏うにはしっかりとした生地のセーターに膝が隠れるスカートを履いている。アクセサリーのような、柄の端にほんの小さな宝石がついた眼鏡をかけて、左手にひとつだけ指輪をしていた。いや、よく見ると二…