11.『三四郎』会話行方不明事件(3)―― 本文を捏造(でつぞう)してみた 美禰子の台詞は二つ続いていた。それがそのまま印刷に付されてしまったのは、この美禰子の二つの台詞は、当初漱石の地の文によって分割されていたためである、と前項でも述べた。ここで無謀にもその「地の文」を勝手に拵えて、その上で重複は承知だがその前後の本文を再度掲げてみよう。新聞掲載の切れ目はここでは考えない。 ・・・ただそのうちの何所かに落ち付かない所がある。それが不安である。歩きながら考えると、今さき庭のうちで、野々宮と美禰子が話していた談柄が近因である。三四郎は此不安の念を駆る為めに、二人の談柄をふたたび剔抉(ほじくり)出…