教授からの手紙 三月に入ると、いくらか寒さは和らぎ、朝夕の自転車通勤も少し楽になった。安夫は職場で新しい観光客誘致の企画書をまとめ上げている最中だった。 「田岡さん、二番に外線です。福島さんと言う方です」 女子職員が声を掛けた。安夫が受話器をとると、 「もしもし、福島です。先ほど一ノ瀬教授からようやく手紙が届きました。よかったら、こちらに来られますか?」 「わかりました。後ほど伺います」 例の返事のことだとすぐわかり、田岡は急いで机の上の書類を片付け、博物館へ向かった。 建物の玄関に着くと、そのままいつもの研究室の部屋に足を運んだ。もう何度も通っているので、受付でも顔なじみとなっている。部屋の…