集英社版「中国の詩人―その詩と生涯」 第四巻は、「庾信(ゆしん)」に当てられ、サブタイトルとして「望郷詩人」が冠されている。 庾信は南北朝時代の天監12(西暦513)年、この時代にしては珍しく比較的安定した梁に生まれ、15歳で早くも後に文選を編む昭明太子蕭統に仕え、その後も順調に出世の階段を登ると同時に、宮廷詩人として華々しい活動を展開した。 この時代の詩は、昭明太子の弟、後の簡文帝蕭綱が、皇太子時代に庾信の父庾肩吾や徐摛(じょち)らとともに確立した、男女間に通ずる情愛や美女の姿態所作などを艶麗に描き出す宮体詩が主流で、当然ながら庾信もその前半生には徐摛の子である陵と競うようにこの流れに沿った…