かつて下村海南は、日本列島を形容するに「狭い息苦しい栄螺(さざえ)の中」との比喩表現を敢えて宛(あて)がい、いやしくも男子に生まれたからには斯くの如き小天地に逼塞するなど言語道断、よろしく気宇を大にして、思いを天涯に馳せるべし、そうしなければ嘘だろうと、筆に演壇に、事あるごとに触れて廻った。 早い話が若者はどんどん国外に向けて進出せよ、シベリアの凍土から南米の密林に至るまで、地球全土に日本人の事蹟を刻み、皇威を行き渡らせるのだ、それこそ君ら世代の使命であると、青年の意気を煽りまくった。 ありとあらゆる社会問題の根源を、急激なまでの人口増加――海南自身の筆を借りれば「人間の粗製濫造」にありと判断…