『溯行』一三六号が届いた。長野市で発行されている、評論・随筆同人雑誌の最新号だ。 今回は創刊五十年の記念号。昔のいきさつを知る者に、回想とこれからの五十年を考えさせようとの企画で、編集長からのお声がかりだった。あっぱれ五十年続いた雑誌なれど、創刊のころを知る同人がたの数も減ってきた近年、まだ貴重な逸話を拾い残してはいまいかとの意図から、同人外の私にまでのご指名だろう。 創刊編集長だった立岡章平さんは、長野に根付いた個性強烈な文芸評論家だったが、夭折された。『欲望と情熱の発見』『古代雑記』『「つきがげ」論』三冊の評論集が残っている。斎藤茂吉への愛着ただならず、また日本古代史への造詣も深く、現代小…