1908年(明41)精華堂刊。前後2巻。都新聞に連載。白菊御殿と呼ばれる華族の伯爵家の騒動を描いたものだが、登場人物のどれをとってもピリッとした所のない、生半可な者ばかりなのが他に例を見ないほど印象に残る。中心となる当主の伯爵も本来謹厳なところが、妾女にうつつを抜かし、新参の女中に触手を伸ばす。その嫡男も放蕩三昧に走る。その取り巻きも御家の体面維持のため、物事を直視せず、決着させず、ごまかしを重ねる。話をどう解決させるのかが気になりながら読み進む。お抱え馬丁の太郎が義侠から動き回るのが救いとなる。現実の御家騒動もこうした煮え切らない人間たちが右往左往してうやむやに納めているのだと思うと、むしろ…