あの山の向こうが目指すべきサンクチュアリ、我が一族のアジールである。 この山を越えてこの川を遡り、 こここそがその地である。 サンクチュアリ、アジール、という概念は西欧由来だが、一般的に前者は”聖域”、後者は”避難所”と訳される。本来同じ意味合いにも関わらず何だか後者の方に悲壮感が漂う。日本では網野善彦の”無縁、公界、楽”としてのアジール分析が名高い。世間と縁を切った世界、世俗権力の介入が及ばない世界ということである。そこは、まさに自由、平等、平和の世界なのである。アジールとは、「心身に迫る脅威から人間を庇護する平和の場」、とある学者は定義する。 我が山間の故郷(旧豊後海部郡中野村)もかつては…