偶には中世を離れて江戸期を覗く。寛政期、我が豊後佐伯藩にとんでもない藩主が出た。 高々二万石の片田舎の外様大名である。その二万石が結果的ではあるが、加賀百万石の向こうを張った。喧嘩ではない。書物の蒐集である。蔵書数の異常な多さである。江戸期文庫の双璧になった(尊経閣蔵書、佐伯文庫)。一代で内外から漢籍を主体に八万巻・四万冊余の蔵書を江戸藩邸、国元の豊後佐伯で揃えた。八代・毛利高標(たかすえ、1755-1801)である。多くが良本、稀覯本である。学術的価値も高い。「佐伯文庫」である。施政においても英邁な君主であったことは幸いであった。時は田沼意次(1719-1788)から松平定信(1759-18…